人類「本来」の姿を創造する健康的な情報が得られる環境はどこにある?

先月,桜美林大学で開催された日本ストレスマネジメント学会研修会での国立精神・神経医療研究センター 本田学先生による情報医学について引き続き書いてみたいと思います。

情報医学とは,脳の情報処理というはたらきの視点から疾患の解明や治療を行おうとするものです。

私たちは,日常生活の中で知らず知らずのうちに膨大な量の情報が脳に入力されています。

街を歩けば,人々の喧騒や電車や自動車の騒音,街のネオンの明かり,飲食店からの匂いなど,視覚,聴覚,味覚,臭覚,触覚などを通して脳へさまざまな情報が入力され,心身に何らかの影響を与えているのです。

本田先生は,以下のような指摘をしました。

私たち現代人が生活している都市化された人工的な情報環境は,人類「本来」の環境とズレていて,ズレによって引き起こされる環境ストレスの中で「適応」しながら生活している。

ズレた環境ストレスと脳機能の慢性的な失調が心の健康にネガティブな影響を及ぼしていると考えられる,と。

そして人類「本来」の姿を創造する健康的な情報が得られる環境として地球上のある場所を紹介しました。

その場所は・・・。

熱帯雨林です。

「えっ? まさか,熱帯雨林? 高温多湿な環境で暮らすなんてきっとストレス感じるに違いない。相当な適応力が無ければ生活できないじゃないか・・・」と,思いませんか?

全くの誤解でした。

例えば,熱帯雨林に熱帯夜はないそうです。

熱帯雨林の年間平均気温は20℃から27℃。湿度は50%。一年中,エアコンなしで快適に生活できるのだそうです。熱帯夜などと言わずに都市夜と言った方が良いかもしれません。

「私たちがエアコンを使うのは,いわば熱帯雨林の環境に近づけようとしているようなものです」と,本田先生。「本来」の触覚情報が入力される環境が熱帯雨林にあるのです。

他にも,視覚情報で言えば海岸線や山の形,枝分かれした樹木などの形はフラクタルと呼ばれる自然の摂理によって創られた形ですが,こうした視覚情報は,ビルや自動車,スマートフォンや家具のような直線的な人工物に囲まれた都市環境下では得難い情報です。

快の情報も熱帯雨林は理想的です。

熱帯雨林に暮らす人々の最大の楽しみは男性が狩り,女性が採集だそうです。

つまり最大の楽しみがそのまま仕事というわけです。しかも,いつでも身近で狩りや採集ができるので蓄える必要もありません。

満員電車で会社まで通勤して,週末の楽しみを支えに一生懸命仕事をして,将来の不安に備えて貯金をしながら生活をしている私たちの生活環境とは大違いです。

仕事を楽しみ,美味しいものを食べて,快適な気候で休息をとることができる環境下で入力される情報が,人類「本来」の姿を創造する情報だというわけです。

本田先生のグループは,聴覚情報の心身への影響について研究をしています。

熱帯雨林の自然環境音には,小動物や昆虫,植物などから発せられる人間の耳には聞こえない超高周波を非常に豊富に含んでおり,この超高周波の音情報は,免疫系の活性化やストレスホルモンの低下を導くことがわかったようです。「ハイパーソニック・エフェクト」と呼ばれるそうです。

都市環境音に超高周波音は極めて少なく,こうした音環境情報の影響を医療に応用する研究が進められています。

本田先生は大切なことを指摘されました。

それは,「超高周波の音情報が脳を活性化する」のではなく,「超高周波音情報が日常的に得られる環境が本来であり標準なのだ」ということです。

熱帯雨林で暮らす人々に入力される快適な情報は,心身へ良い影響を及ぼしているが,そもそもそうした環境が特別なのではなく本来の環境であるというわけです。

こうした環境医学の知見は,私たちが申している里山マインドにも通じています。

熱帯雨林には出かけられませんが,この猛暑を活かして近くの森林や清流に出かけて,木陰や水辺で涼み,フラクタルな風景を見て,木々や小動物の超高周波音の聞こえない音を聴いてみるのも良いかもしれませんね。