人的資本経営が注目されてきています。
会社設立50年の従業員約8000名,全国に約1600店舗を展開するある企業は,数年前より人への投資を充実しようと,社内に相談窓口を設置したそうです。
相談は人間関係のストレスに関わる相談が最も多く,年々相談者は増え,ある期間で相談件数が5倍になったそうです。
さてこの時,企業の業績はどうなったのでしょうか?
おそらく多くの方が,メンタルヘルスの相談が増加すれば離職者も増え,生産性に悪影響を及ぼしただろうと考えるのが普通ではないでしょうか。
全く逆でした。
会社に対する愛着や貢献しようとする意志,いわゆる「エンゲージメント」が高まり,業績はなんと10倍に増えたそうです。
メンタルヘルスの相談が増えることは会社や組織に悪影響を及ぼすどころか,離職者を減らし生産性を高めたというわけです。
なぜだと思いますか?
「率直」に話ができる職場の雰囲気が生産性を高めます。
例えば,離職者は耐えられない状態になってやっと相談につながることが多いため,離職を思いとどまるよう説得しても難しく,早期に相談しやすい環境づくりが大切であると言われています。
相談しやすい環境づくりのために職場の雰囲気を良くすることが求められますが,その雰囲気とは「率直」に話ができる雰囲気です。
「率直」に話ができる雰囲気があれば,メンタルヘルス問題の予防だけでなく,クリエイティブな仕事にも良い影響を及ぼすでしょう。
アメリカ合衆国のピクサー・アニメーション・スタジオの創設者の一人,エドウィン・キャットムル氏は,成功の一因を「率直さだ」と言っています※。
「率直」に話ができる雰囲気は,「心理的安全性」とも言われます。
「心理的安全性」は,業界が全く違っていても成功している全ての会社に共通している雰囲気であり,メンタルヘルスの問題に限らず,組織の成長をもたらす第一要素と考えられています。
「率直」に話ができる雰囲気づくりに心理カウンセリングはとても有効です。
しかし,「率直」に話ができる雰囲気づくりのためには職場全体に目を向けるだけでは不十分です。
経営者や管理職がリーダーシップを発揮して,雰囲気づくりを後押しするだけでは難しいでしょう。
なぜならそれは,従業員自身が「率直」に話をし,本音を聴いてもらった体験がほとんどないからです。
私たち日本人は,本音を押し込め,周囲を気にしながら,過剰に適応している傾向が特に強い民族です。
職場で自分自身の本音を「率直」に話すことは,簡単なことではないのです。
人的資本経営の中では,こうした臨床心理の視座は盲点です。
ですから,経営者や管理職のみなさまや人事や福利厚生のご担当の方には,ぜひ知っていただきたいと思います。
心理カウンセリングは,本音を「率直」に話すことをサポートする機会です。
また,公認心理師/臨床心理士資格を有した心理カウンセラーによる心理カウンセリングは,秘密が法律や倫理で規定されており,心理的安全性が確実に保障されています。
従業員自身が,自分のことを「率直」に話しをする体験ができる心理カウンセリングを取り入れることは,職場全体の雰囲気づくりの取組に相乗効果を発揮することになるでしょう。
※ 成功の一因は「率直さだ」…エドウィン.キャットムル ピクサー共同創設者の言葉
エイミー・C・エドモンドン著 野津智子 訳 恐れのない組織 「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす 2021 英治出版株式会社 より