「東日本大震災の時と全然違った…」
4月初旬,宮下啓子が能登半島の被災地に入りました。
宮下の活動は,文科省による被災地の学校でのこころのケアが目的で,大阪府臨床心理士会所属のスクールカウンセラーとして派遣されました。
宮下は,東日本大震災後に,被災地である岩手県宮古市のスクールカウンセラーとして8年の実務経験をしています。
被災1年後から8年間,宮古市民として生活し,少しずつ復興していく街の様子や回復していく人々のこころを共にした,日本で数少ない臨床心理士です。
宮下は,東日本大震災の時とはまた違った大変な状況について報告してくれました。
被災から4カ月以上たっても未だに水が出ないこと
倒壊した住宅が全くの手つかずそのままになっていること
交通事情やインフラの復旧が東日本大震災の時よりもはるかに遅いこと
「この現状を本当に知って欲しいと思う」と宮下。
現在もTVニュースでしきりにライフラインの復旧の遅れについて報道されています。
コメンテーターが「もっと現状を知ってもらう必要がある」と話していますが,現地をリアルに体験した人からの報告をリアルに聞くと,報道の内容がリアルに感じられます。
宮下の活動は,学校でのこころのケア。
羽咋市から毎朝3時間近くかけて珠洲市の学校まで向かい,1日2校,1校2時間の活動です。
みなさんは,1日2時間でどのような活動をするか想像できますか?
もし,自分の職場や地域で災害が生じ,1日2時間だけ心理専門家が来ることになったら,どう思いますか?
従業員や住民という立場。
経営者や管理職,行政でマネジメントする立場。
それぞれの立場でどう思うかはまったく違うのでしょうが,「心理専門家をどう使おうか」と思われるでしょうか?
何をしてくれるのだろうか...?
何の役に立つのだろうか...?
こんなことをお願いしていいのだろうか…
こうした思いから,「何にもしてくれないじゃないか…」,「何にも役に立たないじゃないか…」という結果を招いてしまいがちです。
こころのケアの“あるある”です。
便利な道具があっても使い方を知らなければ無用の長物。あるだけ邪魔な存在になってしまいます。
水道工事の専門家は日常生活でも身近な存在ですから,私たちは災害が起こった時に何をしてもらえるのか,わかっています。
しかし,日常生活の中では,まだまだ心理の専門家の存在は身近ではありません。
災害時にはこころのケアが必要だということを知っていても,当たり前に活用するようになるまでにはもう少し時間がかかりそうです。
ところで,宮下によれば,「学校では心理専門家の活用の仕方が大分知られてきている」とのことでした。
阪神淡路大震災からはじまったこころのケアは,東日本大震災を契機に,熊本地震や広島豪雨を経て,学校支援モデルが確立されてきていますが,災害や事件,事故などの緊急な場合でなくとも,日常的にこころのケアやストレスマネジメントを活用している学校も増えてきているからです。
たかが2時間、されど2時間… 2時間あればできることはたくさんあります。
心配な児童・生徒との個人面談や教員面談
ストレスチェック
ストレスマネジメントの学習
時間の制約がある中での有効な取組の提案
連携するための情報交換 ・・・
4か月が過ぎた被災地の学校。
日頃からこころの健康教育に取り組んでいる学校は,一見,落ちついたと見えた現在でも継続的に心理専門家を活用しているそうです。
毎月11日に,東日本大震災後の被災地での心のケアを中心に,ストレスケアの実際についてお伝えする特集です。