創業110年以上,SDGsを経営の柱に印刷業を営む経営者の話を聴く機会がありました。
お客様と全従業員,そして地域や各地の持続可能なウェルビーイングを目指し,新しい時代に求められている価値観を事業に具現化させている「先義後利」の手本となるような会社の経営者です。
SDGsの課題を経営に統合して利益を生み出すことは簡単なことではなく,創造的な事業展開が求められ,良質な人材をいかにして育てるかが大きな課題です。
そのためにこの会社が重視していていることは,「ダイアログ(対話)」です。
会合をファシリテートするこの会社の経営者の対話から,従業員の方々の主体的な様子や,一世紀を越えてもなお発展していくこの会社の様子が想像されました。
「聴く監督」 吉井理人氏
話は変わりますが,プロ野球界は前半戦を終えました。
パリーグはシーズン前の予想通り,戦力を高めるために他球団の主力選手を次々と獲得した財力あるソフトバンクホークスが独走しています。
その中で,毎年Bクラス予想の千葉ロッテマリーンズが現在2位につけています。
千葉ロッテマリーンズの選手を率いるのは,吉井理人(まさと)監督です。
和歌山県立箕島高校出身。
近鉄バッファローズやヤクルトスワローズ,ニューヨークメッツでも活躍した元投手です。
引退後は,日本ハムファイターズの投手コーチとなり,大谷翔平選手やダルビッシュ有投手を指導し,世界一となったWBC日本代表チームの投手コーチでもありました。
吉井監督は,筑波大学大学院でコーチング理論を研究し,体育学修士の学位を取得しており,プロ野球界ではとてもユニークな存在です。
その吉井監督。
千葉ロッテマリーンズでは,「聴く監督」と言われています。
選手が自ら考え,行動するようにならなければ勝てるようにはならず,そのために監督やコーチが重視しなければならないことが,聴くことを重視した対話(ダイアログ)だというのです。
著書「聴く監督」の一説をご紹介します。
「野球の競技人口減少に歯止めがかからない今,質の高い育成環境を整えていくことはプロ野球のみならず野球界全体が抱える喫緊の課題だ。そのためにも,野球界の常識にとらわれることなく,あらゆる分野の人たちを巻き込み,意見を聞くことで新たな価値観を見出していくことが必要である。そうでなければ野球界にイノベーションは起こらない。」
(吉井理人 「聴く監督」 2024年 株式会社KADOKAWA より引用)
「野球界」を「産業界」に置き換えて読み返してみてください。
吉井監督のこの一説は,前述した経営者のマインドとまったく同じではありませんか。
野球チームのみならず,企業においても,学校においても,どの業界においても喫緊の課題に共通して求められているものが,「対話すること」,「聴くこと」です。
「対話すること」,「聴くこと」は,心理臨床家の専門とするところであり,私たちにとっては日常的な営みです。しかし,有能な経営者や指導者のマインドを知るにつけ,今,このことがいかに重要視されているのか,想像以上に強いものだと実感します。
対話や聴くことは,イノベーションを産み出す鍵です。
しかし,日々是を営みとしている心理臨床家は,聴くことを重視した対話をするために大切な心がけがあります。
そして,その心がけを無視した対話では決してイノベーションを産み出すことができないことを日々実体験しています。
みなさまにもぜひ身につけて欲しい心がけ。
次回,そのことについて書いてみようと思います。
お楽しみに。