「悪いストレス(distress)」の深い意味

雪の北岳

ストレスという言葉は,セリエ博士が使うようになって現代に至っていますが,今ではストレスを良いストレス「ユートレス(eustress)」と悪いストレス「ディストレス(distress)」という言い方で,ストレスの質を分類することもあります。

今回は,私たちが深掘りして解釈した,まだどこにも知られていないストレスの逸話をご紹介します。

悪いストレスをあらわす「ディストレス(distress)」には,「悩み,苦悩,苦痛,苦境」という意味がありますが,distressという言葉の語源からもうひとつのストレスの神話的理解が考えられるのです。

distressは,dis-tressと分けて考え意味を捉えることができます。

disには「分離する」,「奪う」,「欠如する」という意味があり,tressには「ふさふさした髪」という意味があります。ですから,distressは,「ふさふさとした髪が奪われて苦悩した状態」という意味になります。

でも,もっと深い意味があります。

tressは,tree(樹木)と源は同じです。

そしてtreeの語源を辿ると,druid(ドルイド)とdruas(ドリュアス)という言葉に通じます。

ドルイドとは,ケルト文化のシャーマン,哲学者,医師,裁判官,預言者のことで,「オークの樹(樫の木,ドングリのなる木)」を意味するdrusと,「知る」を意味するwidから成り,「オークを崇拝する賢者」という意味だそうです。

ドリュアスとは,妖精(ニンフ)のことです。

妖精は多くの神話に登場しますが,森の奥や未開の土地の泉や古木の影,あるいは避難所になるような場所にいて,人間とよき隣人関係を築き,失ったものを一緒に探して見つけたり,薬草の知識を教えたりして人々の役に立つ存在として物語られています。

つまり,distress(ディストレス)という言葉は,ドルイドやドリュアスが迫害されている状態を表しているのです。樹木の賢者や妖精が迫害され,奪われ,苦痛や苦悩を味わっている状態が「悪いストレス(distress)」というわけです。

科学的な見方や価値観が重視されるようになった今,森や樹木に対する信仰は薄れ,自然環境破壊にも伴って樹木の賢者や妖精は姿を消しつつある存在になっています。

本来,自然の一部である自分自身が,樹木や森林,あるいは深山や自然の摂理への信仰心を忘れ,科学的な見方や価値観に偏った情報ばかりに触れて息詰まっている状態が悪いストレス(ディストレス)なのかもしれません。

先週末,甲府盆地は大雪に覆われました。

大変なことも生じましたが自然現象には逆らえません。

大変ではあったものの,早朝のいつもと違う静かな山麓の風景にはどこか気持ちが癒されるところもありました。もしかすると,こうしたマインドがドリュアス達とのつながりなのかもしれませんね。

参考 

世界樹木神話 ジャック・ブロス著 藤井史郎・藤田尊湖・善本孝 訳 2008 八坂書房

エドモンド王の伝説と木に纏わるシンボル 今関雅夫 2003 帝京大学短期大学紀要