台風15号から3週間
ユーストレスのスタッフの一人,吉永弥生さんは静岡県に在住です。
先月の台風15号の雨の様子と災害時のこころのケアについてお話を聞きました。
「生まれて一番の降りだったかも!」
台風や豪雨が多い静岡県でも過去に経験のない雨の降り方だったようです。
気象庁によれば,静岡市の総降雨量は400㎜を超え,夜8時から日が変わるまで4時間,40㎜以上の雨が降り続き,いったん弱まったものの深夜2時以降の一時間は100㎜を超えたそうです。
40㎜は「激しい雨」という言い方をするようですが,いわゆる「バケツをひっくり返したように降る」というイメージで,道路が川のようになる降り方です。どしゃ降りの夕立の降り方が20㎜~30㎜ですから,40㎜の雨が4時間以上続いている様子は体験しないと想像もできません。
街の様子やライフラインの被害などニュースでも報じられましたが,浸水や断水した際の生活の苦労や,商店の品薄やコインランドリーの順番待ちなど,実際にその場で体験した方から聞くリアリティは心に残ります。
吉永さんは,令和2年度まで岩手県大槌町の学校カウンセラーとして子ども達や教員,保護者のこころの健康をサポートしてきました。静岡県に戻ってからも熱海市の支援をはじめ県内の心のケアのための支援に入っています。我が国では,災害や事故等におけるトラウマティック・ストレスケアのスペシャリストの一人です。
災害時の支援について大切なお話を聞くことができました。
「やることはわかっていても,やることをやれるようになるまでが一番難しい」
予期せぬ災害が発生した際,被災者の多くが様々なストレスを受け,心身に影響が出てきます。
身体の怪我や病気に対する応急処置が必要であることは誰でも理解していますが,災害等危機的状況に遭遇した時の心の応急処置についてもその必要性・重要性が認められるようになってきています。
心理的応急処置は「サイコロジカル・ファーストエイド」と呼ばれ,具体的な支援内容や方法について確立されてきています。また,こうした支援は,阪神淡路大震災を体験した兵庫県の専門家を中心に取り組まれ,弊社顧問の冨永良喜氏はその第一人者です。
こうした中,心理的支援の方法がたとえ確立されてきていても実際に支援する上で最も難しいこと。それが吉永さんのメッセージです。
目の前のことに精一杯である被災した当事者が自ら心理支援を求めることはありません。しかし,まただからこそ心理的ダメージの応急処置が蔑ろにならないように,心理的支援者の存在が必要です。とは言うものの,例えば災害支援を担当する行政の方々も対応に追われ,当事者からの依頼がないと心理カウンセラーを派遣することなどできません。そして,そうしている間にも事は起こり進んでいるのです。
「緊急支援においては,ニーズがあってからでは遅いんです。『こういうことが起こるかもしれないから,こういうことが必要で,こういうことをしましょう』と提案し,一緒にニーズをつくっていく第三者の存在が本当に必要です」と吉永さん。
例えば,いじめやハラスメント被害などの組織の内部で生じた問題に第三者の関わりが不可欠であることは認識されていますが,他の様々な心理的支援においても第三者が必要だというニーズが拡がることで適切な支援が入りやすくなるのではないでしょうか。
2018年西日本豪雨災害後の支援に入った時に被災した方からお聞きしたことです。
「夜中,2階で寝ていたらものすごい雨の音で目を覚ました。階段を降りようとしたら1階が川になっていた・・・」とその時の様子を溢れるように語り,「でも家を流された方に比べれば私はまだいい方。だから辛いなんて言えなかった・・・。話を聞いてもらって少し楽になった」とお話しされました。
ショッキングな体験を語り,聞き取ってもらうことで混乱していた一つひとつのことが心に収まり,少しずつ本来の自分が発揮できるようになっていく。こうした過程が心理カウンセリングの意義のひとつです。
心理的な痛みや悩みを身近な人に聞いてもらうことは日常的にしていることですが,時に,知人や同僚や親族など何かしらの関係がある間柄では,話を聞き取ることが難しいこともあるでしょう。
第三者へのニーズが拡がり,活用するハードルがもっと低くなるといいですね。