
2026年6月26日・27日の2日間、京都市山科区において日本臨床動作学会が開催されました。
学会では、当社顧問であり、兵庫教育大学名誉教授、いじめ・災害・事件事故など危機における心理支援研究の第一人者である冨永良喜先生による教育講演「子どもがいのちと心を守り育むために私たちができること」が行われ、多くの参加者の関心を集めました。
冨永先生は、国内外の災害や事件・事故、学校でのいじめや暴力への支援活動を長年続けられ、子どもの心のケアや予防教育の研究・実践を積み重ねてこられました。
今回の講演では、子どもたちを取り巻く危機に対して、今の教育に何が求められているのかについて、多くの示唆をいただきました。
※冨永良喜先生のプロフィールはこちら
日本は「事後対応」には力を入れている
学校で重大な出来事が起こると、
・緊急集会
・健康観察
・ストレスチェック
・個別面接
・心理カウンセリング
・スクールカウンセラーの要請
など、さまざまな対応が行われます。
もちろん、これらは子どもたちの心のケアのために欠かすことのできない大切な支援です。
その上で冨永先生は、「これからさらに力を入れるべきなのは、予防や未然防止である」と強調しています。
私たちは病気になれば治療を受けます。
しかし、それと同じくらい、運動や食生活、定期健診などによって病気を予防しています。
心の問題も同じです。
いじめや暴力、不登校、自殺などが起きてから対応するだけではなく、困難な出来事に出会ったとき、自分や友だちの命と心を守る力を育てる教育が、今の社会には求められています。
道徳授業によるいじめ防止の課題
冨永先生は、子どもの心を育む教育として道徳科を重要視しています。
また一方で、日本の道徳授業には大きな課題があることも指摘しています。
先生が発表された論文「日本の道徳授業によるいじめ防止の課題」では、文部科学省が公開している小学校のいじめ防止授業を分析し、
多くの授業が
〇「いじめはよくない」という価値を理解すること
〇登場人物の気持ちを考えること
に重点を置いていることを明らかにしています。
しかし、
〇いじめを目撃したらどう行動するか
〇被害を受けたときに誰へ相談するか
〇周囲の友達とどう協力するか
といった具体的な行動を主体的に選択する学びは、ほとんど扱われていません。
背景として、教育全体の目標として「主体的な判断の下に行動する」ことは掲げられているものの、道徳科の目標には「適切な行為を主体的に選択する」という視点が十分位置づけられていないという制度上の課題があると指摘されています。
「わかっている」のに行動できないのはなぜか
「いじめはダメ!」
多くの人が、みな理解していることです。
しかし、目の前でいじめやハラスメントが起きたとき、本当に「やめよう」と声を上げることは簡単ではありません。
また、自分では意識になくても、知らないうちに相手を傷つける言動をしていることもあります。
では、どうすればよいのでしょうか?
冨永先生は、価値や道徳心を理解するだけではなく、「内面(思考・感情)」と「具体的な行為」を往復しながら学ぶ体験的な教育が必要であると提案されています。
例えば、日常の出来事を題材にした役割演技(ロールプレイ)は、その代表的な方法です。
被害者、加害者、傍観者など、それぞれの立場を体験し、
〇自分が何を感じたのか
〇なぜ行動できなかったのか
〇どのような選択肢があったのか
を振り返り、
〇その時の心のつぶやきに気づき
〇不安感や緊張感を味わい
〇リラックスするなどして和らげ
〇適切だと思う行動を実際に演じてみる
という活動です。
「わかっていてもできない」時の自分の心の動きと身体の反応を自覚し、実際に行動できる力を育んでいくことを目指します。
「行為の選択は生死を分ける」
講演の中で最も印象に残った言葉です。
東日本大震災の際に、海沿いの小学校で避難を続ける子どもたちのもとへ、一人の母親が迎えに来たエピソードがあります。
母親は、
「どうする? みんなと一緒に待つ?」
と尋ねました。
子どもは、
「怖いから帰りたい」
と答え、母親と一緒に避難しました。
その選択によって、この子どもの命は守られました。
知識だけでは命は守れません。
自分の不安や危険を感じ取り、その場で適切な行動を選択する力こそが、命を守ることにつながるのです。
この考え方は、災害だけではありません。
いじめ、暴力、不登校、ハラスメントなど、私たちが日常で直面するさまざまな問題にも共通しています。
子どもの命と心を守る教育のために
近年、いじめや不登校、子どもの自殺は大きな社会課題となっています。
これらの問題に対しては、問題が起きてから支援することはもちろん重要ですが、それ以上に、子どもたち自身が適切な行動を選択できる力を育む予防教育が求められています。
当社では、臨床心理士・公認心理師の立場から、学校・教育委員会・企業などを対象に、メンタルヘルス、いじめ防止、ハラスメント防止、ストレスマネジメントに関する研修や心理支援を行っています。
また、当社顧問である冨永良喜先生による講演・研修のご相談も承っております。
学校や教育機関、自治体、企業などで講演をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。
関連資料
冨永良喜 「日本の道徳授業によるいじめ防止の課題」
(Asia Disaster Trauma Research Preprint アジア災害トラウマ研究 第2巻)
毎月11日はストレスマネジメントの日
来月は「グレートマザーシリーズ」第6回を予定しています。

