
きっとずっと昔からお城が好きな方はいたでしょうが,近年では特にメジャーな趣味になってきたように思います。
私は特にお城好きということではないのですが,前々からお城について疑問に思っていたことがありました。
それは,“こんなに労力をかけて城を建てるって,どういう心境なんだろう”,と。
つまり,“今風”に言えば,コスパが悪いんじゃないか?と疑問視していたわけです。
それが,つい最近,間違いだと気付きました。
おそらく,いざ戦となった場合,兵馬・武器・武具・兵站の確保や,戦況に対する瞬時の判断が不可欠で,そして間違いなく,人命の損失が生じます。事前に予測できる要素もあるでしょうが,不確定因子の方がはるかに多いはずです。天候とか,奇襲とか,誰かが裏切るとか…。そもそも敵勢が攻めてくるタイミングが不確定因子の最たるものです。
一方,城を築くことは,不確定因子が少ないです。
“今,戦はなさそうだ”という時に“ボーっ”としているのではなく,タイミングを見計らい人員を総動員して築城し,堀や塀,門,狭間を設けることで敵勢と対峙する段取りを作ることができます。
そうすることによって平時に余計なストレスを感じなくてもすむのでしょう。
そのことに気付いた時,私は“お城って,ものすごくコスパが良いんだ”と,むしろ感動しました。
国の特別史跡で世界遺産でもある,あの壮大な姫路城は,今の姿(池田輝政築城)になってから,結局一度も攻められたことがなかったと聴きます。築城に膨大な労力が費やしたが故に,むしろ戦わずに済んだ,あるいは潜在的敵対勢力に攻める気力を失わせた,とも解釈できます。
「いやいや,天下泰平の世になったからでしょ」と思われる方もいるでしょうが,今の姫路城が完成したのは慶長十四年(1609)。大坂夏の陣が慶長二十年(1615)。
後世の我々は“後出しジャンケン”でいくらでも言えますが,当時はまだまだ天下泰平とは言えず,その築城は必死だったことでしょう。
その後,徳川幕府は265年もの長きに渡って政を担ったわけですが,その本拠地である江戸城は,姫路城よりもさらに広大です。今の皇居は東京ドーム25個分という広大さですが,それでも江戸城の一部で,当時の外郭といったら,とんでもない広さになります。
恐らく,西洋の兵装が導入されるまで,江戸城を攻め落とそうなどと考えた武将は,誰一人いなかったでしょう。
江戸時代の天下泰平を支えたのは,江戸城の堅牢さという物理的要因に寄るところがあったかも知れないと,日本史には詳しくない私ですが想像しました。
城を築くことと心理カウンセリング
何かが起きる前に先手を打って対処する。
これって,予防ですよね?
築城は,マスク・手洗い,防災グッズ,塾に行くこと,車にドライブレコーダーをつけることなどなど…。
病気や災害や将来や危険や…,何かへ備える予防と同列の行為だったんですね。
予防は,「予防しなかったが故に生じる金銭的・労力的・時間的損失」よりもコストが低く済みます。そのことを私たちは,コロナ禍の時に痛感しました。
マスクや手洗い,換気といった低コストな行為だけで感染を相当予防できたのですから。
事態が起きる前にお金と労力と時間を割くのは,“もったいない”と思うかも知れません。
しかしそれでは,築城をケチって戦の不確定因子に右往左往するようなものです。
心についても予防は大切です。心理的に調子が悪くなる前に,様々な手立てを講じてそれを防止するという心理カウンセリングやメンタルヘルス対策は知られてきています。
しかし,身体的な予防程にはまだ取り組まれていません。
心理的に調子が悪くなってから原状回復するためには,かなりの労力がかかります。
ならば予防に力を入れたい,というのが私の考えです。
専門的にはなりますが,予防には一次予防,二次予防,三次予防があります。
一次予防は「起きる前に予防すること」
二次予防は「早期発見・早期対応」
三次予防は「再発防止」
もちろん「心理的に調子が悪くなったら,もう予防は意味がない」ということもありません。
お城を眺めながら,予防の大切さを再認した昨今でした。