1995年1月17日の阪神淡路大震災からまもなく30年。
節目の年となる今年,多くのメディアで当時の様子が報道されています。
悲しみ,怒り,痛み…,震災を体験した方の語る言葉に日常の平穏を祈ります。
1990年代の日本。
社会的には,バブル経済が崩壊し「失われた10年」「就職氷河期」という言葉が生まれ,自殺者が3万人超に急増した時代です。
子ども達の問題では,いじめによる自殺や不登校なども深刻化し,震災と同じ1995年にスクールカウンセラーが配置されるようになりました。
さまざまな社会問題の背景にある心理的なテーマにも注目されるようになった時代です。
「心のケア」の本質とは?
弊社顧問でもある兵庫教育大学名誉教授の冨永良喜氏は,阪神淡路大震災,神戸児童連続殺傷事件,インド洋大津波,中国・四川大震災,東日本大震災など,様々な災害や事件後の心のケアに関わってきています。
冨永によれば,災害後の心理的支援に関する研究はそれ以前にも存在したが,「心のケア」という言葉は阪神淡路大震災をきっかけにマスメディアを通じて使われるようになった言葉であり,時代の要請でもあったと述べています。
1995年が,我が国の心理支援が始まった元年と言えるのかもしれません。
しかし,当時まだその具体的な方法は乏しかったようです。
あなたは「心のケア」でどんな活動をイメージしますか?
被災者に対して,元気になってもらおうと歌を歌ったり,勇気づけようと格言のようなメッセージを送ったりすることを想像するかもしれません。
心理専門家ならば,トラウマ反応に働きかける心理療法を連想するかもしれません。
しかし,心に傷を負った者にとってが傷を治療することが必ずしも「心のケア」とは限らないのです。
冨永は言います。
「ケア」には「世話」という意味があり,心のケアは「他者が傷ついた人を世話すること」と考えられがちだが,「心のケア」の本質は「被災された方自身が,傷ついた心を主体的に自分でケアできるように,他者がサポートすること」であると。
何度かくり返して読んでみていただきたい言葉です。
こうした心構えは,なにも心理専門家に限って必要なものではありません。
職場で悩んでいる社員から相談を受けた時,子どもが失敗しても再チャレンジする心を応援したい時,パートナーとの間で共依存に陥らない良好な関係を築こうとする時…。
日常の中でもきっと役立つマインドだと思います。
参考 冨永良喜 2014 災害・事件後の子どもの心理支援 創元社