「ストレスホルモン」は必要以上にたくさん届いた重要書類のようなもの

ホルモン

こころの不調を整える神経伝達物質とホルモンのはたらきを会社組織でたとえてみましょう。

会社で何かあったとき,社長や幹部が協議をして,決定した方針が次の部長や課長に伝えられ,部長や課長が係長やリーダーに具体的な指示を伝えて現場の社員がそれぞれの役割を果たします。

この時,命令や指示を伝えるために電話やLINEが使われることもあれば,資料や指示書などの書類で伝えることもありますね。

こうした過程は,私たちの心身の内部環境の維持のはたらきに似ています。

外部の環境からさまざまな刺激を受け体内の環境が影響を受けると,脳から神経を通して臓器などの各器官に「体内環境を整えるために○○をせよ」と命令が伝わります。こうした命令や指示内容を伝える物質が,セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質とホルモンです。

神経伝達物質とホルモンの違いは情報伝達のスピードです。

「体温が高い! すぐ下げよ」といったすぐに対応しなければならない情報は,電話のように素早く伝えなければなりません。神経伝達物質は電話やLINEのようなはたらきをしています。

一方,ホルモンは手紙や書類のような情報伝達です。

例えば,「身体を成長させるために各細胞でタンパク質をつくれ」といった指示は即効的である必要はありません。時間をかけて持続的にはたらく必要があります。

「本日○○臓器は,○○タンパク質をこれだけ作れ」といった指示は,電話よりも書類で届ける方が確かです。

ホルモンによる情報伝達は,時間はかかりますが効果が持続する物質とも言えるのです。

みなさんは,「ホルモン」と聞いて何を連想しますか?

「成長ホルモン」,「性ホルモン」,筋肉増強剤の「ステロイド」・・・色々ありますね。

「ホルモン焼き」が浮かぶ方も多いかもしれませんが・・・。

ご存じの方もいらっしゃると思いますが,ストレスホルモンの一つとして「コルチゾール」という物質が知られています。

コルチゾールは,副腎皮質ホルモンの一つで,栄養の代謝や炎症の制御,免疫反応など,私たちの身体の多くの機能に関わっている重要なホルモンです。

ストレスによってコルチゾールがたくさん分泌され,それによって体がうまくはたらかなくなりますので「ストレスホルモン」とも呼ばれていますが,コルチゾールは心身の環境の維持に不可欠な必須ホルモンのひとつです。

もし,現場ではたらく社員に,重要な書類やその日の業務の指示書が次から次へとたくさん届いたらどうでしょう。書類の整理に追われて本来の仕事に影響してしまいますね。ストレスホルモンとして測定されるコルチゾールは,必要以上にたくさん届いた重要書類に似ているのです。

最後に心理カウンセリングについて。

心理カウンセリングは,即効性を求める神経伝達物質のようなアプローチが必要な時がありますが,多くの場合「時間はかかるが効果は持続する」ホルモンの効果のようなアプローチかもしれません。