里山マインドのストレスマネジメント 6
初秋。夏の終わりの風が黄金色に変わり始めた稲の穂をなで,抜けてくあぜ道を散歩していました。青空に入道雲が湧き立ち,はっきりとした影と,背中から流れ落ちる汗。秋を感じるにはまだしばらく先になりそうです。
入道雲が拡がり,夕立が来そうな雲行きになってきました。やがて稲妻がピカッと光り,しばらくしてゴロゴロと音が聞こえてきました。またピカッ,1,2,3,4秒…,ゴロッ,ゴロッ,ドーン! どこかに落ちたようです。
音速は温度で変わりますが,今の季節であれば1秒間に約350mです。4秒なので1400mくらい離れたところに落ちたようです。近いですね。気をつけないといけません。
稲妻が光ってから音が聞こえるまで何秒か数えて距離を知ろうとした経験は,どなたにもあると思います。
さてこの時,「音が聞こえた」とか,「音が伝わった」という時の「音」をどのように捉え認識していますか? 多くの方は,雷の音が移動してきたように捉え,認識しているのではないでしょうか?
しかし,音は空気の振動であり,音の伝わりは「波動」現象です。「波動」とは,ものそれ自体が移動する粒子的な運動と対をなす運動であり,「ものそれ自体は移動せず,ものを伝える媒質の位置の変化が移動する」運動です。とはいえ,雷を聞いた時に空気の振動を考えたり,空気の振動が伝わったと言う人もいないでしょう。
糸電話の場合でしたらどうでしょう? 少しは媒質について意識を向けるのではないでしょうか?
最近は,携帯電話の普及で糸電話を使う子どもは少なくなってきていますが(笑),糸電話で遊ぶ時には糸をピンと張りますよね。声を伝える媒質となる糸が振動する状態でなければならないからです。
ところで,興味深い研究結果があります。
「糸電話の糸を途中で結んだ場合,声は聞こえますか?」という質問に対して,約半数が「聞こえない」と誤って答え,その理由として「音が結び目で止まる」,「声で震えた振動が結び目で止まる」といった考え方を示したそうです。
糸をピンと張っている限り糸は振動しますので,たとえ糸を結んだとしても振動し,振動が波のように伝わり声は聞こえます。しかし,声や音が移動していくという物事に対する捉え方によって,間違った考え方を作りあげてしまうのです。
新宿駅にあるような電光ビジョンに流れるニュースを見るときに,私たちは光の文字が移動しているように捉えます。しかし,実際は配列された電球が点滅している現象であることも知っています。
電光ビジョンを,文字の移動とみる場合と,電球の点滅とみる場合とでは,明らかにそこから引き出そうとする内容(前提)が異なるのです。明日の天気を知ろうという前提でみるならば文字の移動として認識し,電光ビジョンの仕組みを知ろうとする前提ならば点滅として認識します。このように私たちは,何かを認識しようとする時,前提となるような物事に対する捉え方があり,前提に関連した一定の知識が使われるようです。
認知科学者で人工知能(AI)の父と呼ばれるマービン・ミンスキーは,こうした心の働きをフレームという言葉で説明しました。これは,認知心理学のスキーマや科学哲学で使われるパラダイムという言葉にも通じた概念です。
そして,認知科学や認知心理学の要素を取り入れた心理療法が認知行動療法であり,現代では認知行動療法に基づいたストレスマネジメントが主流となっています。